シャア専用ブログ

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05/08/20-17:08

富野、吠える!:シャア専用ブログ

BSアニメ夜話スペシャル「まるごと!機動戦士ガンダム」より。
読み易さより発言に忠実にしたつもり。

東京 杉並区(サンライズ第7スタジオ前)

里匠(NHKアナウンサー)
あの、富野さんの仕事場というのはもうこのすぐ近くなんですね?

井上伸一郎(アニメ雑誌発行人)
そうですね。本当に住宅地の中にスタジオはあるんですけど、制作スタジオはずっとこの場所で。


どんな方なんですか?

井上
どんな方と一言で言えないぐらい面白い人なんですけど。


そうですか。

井上
ええ。まぁちょっと気を付けなければいけないのはね、初対面の人はまずガツンと最初にやられることが多いです。


ああ、そうですか。

井上
今まで悲惨な目も、そういう場面にも立会いましたので。大変ですよ。


じゃあ緊張しますねぇ。

井上
ここが富野さんが仕事をしているスタジオなんで。この中で今まさに作品が作られていますので。


さぁ、じゃあ行ってまいります。

井上
行きましょう。

スタジオ内に入る。


2階が仕事場なんですかね?

井上
そうですね。2階が監督の机と、あと作画の机があるらしいですね。


失礼します。御邪魔致します。御邪魔致します。

井上
御邪魔します。

富野
あれ?


ああー

富野
お疲れ様です。

井上
どうもです。
今日はちょっと宜しくお願いいたします。お時間。

富野
はい、今凄くとっちらかってる所なんです。


富野さん、初めまして、アナウンサーの里匠と云います。

富野
富野です。宜しくお願いします。匠さんでいらっしゃいますか。嫌ですなぁ。


ええー、何でですか?

富野
だって君、仕事が巧みにやらなくちゃいけないというのが、こういうにしかできない自分の立場を考えると何か嫌がらせに来たんじゃないのかと。


そんなことないですよ。滅相もございません。

富野
でしょ?


滅相もございません。

富野
今本当にあの、別に収録用のやらせでなくて、ちょっと追い込みに入ってまして、ちょっと地獄です。


作業としましては、今どんな作業をされているんですか?

富野
僕の場合には当然コンテを、話を纏めて、こういう様にコンテ化する、つまり絵の並び方をこういうようにしますよ、というのを決めるコンテを書く仕事があるわけです。
その上でアニメーターに作画してもらって、例えば今もここにあるんですけど、
例えばこのカットでいいますと、これ宇宙戦艦です、それがこういうように、今良くわかんないんですが、爆発していくっていう、
これをベースにして原画を描いて動画を描いていきます。大雑把にレイアウトの全体のチェックするというところまでは僕の仕事になってます。


実際にメインで作業されるスペースはこちら?

富野
はい、全部ここで済ませちゃいます。だからアニメって嫌な仕事だなと思えることがあるのは、実際できあがった画面を見ると、かなり大きな絵があったり小さな絵があったりしますでしょ。
それが全部ここで済んじゃうという気分が、映画を撮りたいと思っている人間にすると、手狭に済ませちゃって嫌だなって感じはありますね。


お机の前に紅葉の写真ですかこれは。写真を貼ってらっしゃるのは例えば作業の合間に気分転換に?

富野
んー何でこの写真かというとアニメの仕事をやっている時に、アニメ的な絵・漫画的な絵を見てる訳だから、スペアタイムの時には絶対に違うものを目に入れるっていう。
これも自己訓練のためにやってるんです。


これから深く深く伺っていきたいと思っておりますので。

富野
今ので全部話したな。


また意地悪言わないで下さいw宜しくお願いします。

富野
話したよね?

井上
まぁ。

ナレーター(永井一郎)
富野監督専用の机。数々の名作がこの場所から生まれました。今から26年前、富野さんはどんな思いでガンダムを作ったのでしょうか?


井上さん、富野さんとても優しい方なので安心しました。

井上
良かったですね。ちょっと最初に脅し過ぎましたね。


井上さんに怖い方だから気を付ける様にって。

富野
昔は怖かったらしい。


そうなんですか。

井上
今も時々は怖いですね。

富野
だけどね、理想があって良いおじいさんとか威厳のある年寄りになりたいという理想があったわけ。
理想にかけ離れている自分がわかっていらついているっていう事もあるから。
時々やっぱり勘が切れるっていうことがあって、困ったなと思っている。なるべく今日も偉ぶりたいなぁと。


ひとつ宜しくお願いいたします。
ガンダムの世界観に私達が引き込まれた魅力のうちの一つに富野さんが作品の中で使ってらっしゃる言葉というのがね、
非常に大きな比重を占めていると思うんです。
それはセリフであったり、登場人物の名前であったり、あるいはそれこそモビルスーツのネーミングであったりと、そういう単語の魅力というのをとても強く感じたんですね。
例えば、それこそガンダムとか、そういったネーミングというのは富野さんの中ではどうやって決めていかれたものだったんですか?

富野
ガンダムに関しては仕事として会社が決めたものです。だから決めるのに僕も付き合ってます。
本当に大変なんです。マルC、俗にいう商標にひっかからない名前を作らなくちゃいけない。
そして濁点のつく言葉がなくちゃいけない。「ン」が入らなくちゃいけない。


それはどうしてなんですか?

富野
え、「ン」が入らないと当たんないんです。

井上
よくそう言われます、キャラクターものでは。


どうして?

富野
だから、それがなければ当たんないの。


そういう法則が?

富野
あんの。それはあの当時の、つまり10年位の中でのこの業界の基本的な、
言わば伝説と言わば言える、お前らの迷信だろうと言わば言える。
だけどそういうものに加担しない限り怖くてやってられないよ、っていう事なので、やっぱそういうものには縋ります。
本当に4、5人がかりで200位名前を書き並べておいて、ああじゃないこうじゃないこうじゃない。
それで最終的に、例えばガンダムで言えば、まず穏当な所でガンボーイで、まず商標を申請してみるんです。


ガンダムは最初、ガンボーイだったんですか?

富野
ガンボーイ。
それでスポンサードが「そんな柔い名前では困る」とかいうのがあって、必ずしも理想的な名前ではないんです。
あと肩タイトルを付けなくちゃいけない、つまり「機動戦士」って付けなくちゃいけないっていう事でも、
「機動戦士」が良いかという事でもぐだぐだぐだぐだ揉めましたし。
「実はモビルスーツってルビを振りたいんだよね」って話、それはもう揉めに揉めて、それで基本的にそれはひっこめて。


「機動戦士」っていうのに「モビルスーツ」とルビを振るのも駄目だった。

富野
「そんな訳のわかんないの付けてもらっちゃ困る」って。


モビルスーツってわかんないだろうって。

富野
当たり前です。
むしろ「機動戦士」の時に、「きどうせんし」って平仮名のルビを入れろっていうことのほうが重要なんですよ、当時は。
それは何だと「餓鬼向けだから」お前ら子供ナメてないか、とその時には当然言えないわけだから、
困ったねえ、つって引き返してくるしか無いわけです。それが世間というものです。
だからその後劇中で出てくるものに関しては好き勝手にやらせてもらうという事になるわけです。


まず看板はとにかくいろんな状況の中で。

井上
劇中では「機動戦士」なんて言ってないですよ。

富野
「機動戦士ガンダム出撃します」とは言ってないね。考えてみればそうだねぇ。

井上
とりあえず看板は作ったから勘弁してくれ。

富野
だからそういうプレッシャーはずーっとあってやっている事なわけです。そしてだからほとんど嫌がらせなんですよ。
劇中に出てくるやられメカに「ゲルググ」みたいな名前をつけて、いくらなんでもサラリーマン社会といえどもこんなネーミングは採用しないだろうと思うものはみんなパスするわけ。
それで分かってくる事があるわけ。
あ、この人達結局作品は見てないんだ、おもちゃが売れれば良いだけだ。
それが、いいですか、おもちゃ屋さんのサラリーマンがそう思うのはいいんですよ。代理店の奴までがそうなんです。
局の奴までがそうなんです。マ・クベの名前なんかに至っちゃいくらなんでもな、って思ったけども、みんなパスだもん。
ということは、あの人達はシナリオも読んでないんだ、コンテも読んでないんだ、アフレコに来てても何も聞いてないんだって、それだけのことですよ。
だからそういうところから始まっています。


富野さん、登場人物の名前とかモビルスーツの名前とかに、そういう思いというのは色んなところで込めてらっしゃるんですか?

富野
ありますよ。大体シャアなんて名前なんか本当に嫌いだったんだけども。
シャーって来るからシャアなんだよ、って言ったらOKしちゃったわけ。
その雑さはないだろう、って俺思ったもん。


シャアっていうのはシャーって来るからシャアなんですか?えぇ、そうなんですか?(井上氏に聞く)

井上
それは初めてですね(首をかしげながら)。

富野
本当にこの人達無定見だなと。要するに漫画の仕事をやるってのはこんなもんだと思ってるんだと思って本当腹立ったもん。


本当は逆にこれはこういうようにしようよとか、こういう名前にしたらっていう事を言って欲しかった?

富野
言って欲しかった。そしてむしろ僕がいちばん血道をあげて作った名前がアムロだったんです。
そしたらアムロについてだけは文句言った。そんな聞いたことのない名前はやめてくれって。
これはね、作品を作るうえで完全に色分けをしたいと思って本当に俺一週間以上かかって作った名前なんだけども、
そういう風に聞こえないの、って言ったら「だって変だもん」

井上
特定のイメージがあってそれにはめこめた…。

富野
主人公の名前じゃないって。それはだから考えたんだよって。これは認めてくれ。だけど殆どの人がワンクール認めてくれなかったもん。

井上
始まっちゃってからも?

富野
勿論。やっぱり変、主人公の名前じゃないって。ロボットものの主人公の名前じゃない。強くない、だって強くねえもん。


それは結果的に「アムロ」という名前になったっていうのは、何が富野さんの中でヒットしたんですか?

富野
いや、これに関してはもう勘でしかない。ただ少なくとも声に出してみて僕には良い名前に聞こえた。
この名前の組み合わせは固有名詞では世界中にどこにもないだろうと確信持ったものね。
そしたらワンクール目に打ち破られたけどね。「沖縄に安室島ってありますよ」ってファンレターが来て僕がっくりきた。
本当死にそうだったもう。

井上
何となくね、日本人が主人公じゃなきゃいけない時代があって、それが正義じゃなきゃいけない時代があったんですけど、
そういうのが色んな形で色んな民族とが、敵にも日本人っぽいのがいたり、味方にも外国人がいたりすることによって
色んな価値観が相対化されていく作用はありますよね。

富野
あぁ、そうそうそうそう。だから価値観をフラットに、相対化って言うよりも平準にしていくという事はもの凄く意識しました。
そして逆に名前がヒットするとキャラクターが生きるということも現にあります。だから僕はファーストガンダムのときのレギュラーメンバーの名前の半分位が大嫌いなんです。
さっき言ったシャアも嫌いだったし、ミライ・ヤシマも嫌いだし、カイ・シデンも嫌いだし、ハヤト・コバヤシの名前もみんな嫌いなんです。
嫌いだったおかげで何とか名前に似合うキャラクターにしなくちゃいけないっていう。
あぁ、セイラ・マスの名前も嫌いでしたね。安易につけたっていう印象がもの凄くあるので。


それはご自分の中で?

富野
そうです。セイラ・マスっていう名前だったら、嫌いな理由が明確にあったんです。セイラとかマスとか思わせないように、この子を高みに置いちゃおうと思ったんです。
この子っていうキャラクターを高みに置くってのはどういう事かというと、徹底的に要するに気位の高い娘にしてくとかっていう努力をするわけです。


セイラ・マスって名前は何で嫌いだったんですか?

富野
これはテレビコードに引っかかりますから喋れません。


あぁ、そうですかw(井上氏も笑う)

井上
逆にそれはちょっと言い方悪いですけども、適当に付けた名前だったからこそセイラがあれだけ良いキャラになったということ。

富野
全くそう、全くそう。


そういう意味でどういう風にそうキャラクターを作っていったんですか。例えばセイラ・マスの場合だったら。

富野
いや、だからアルテイシアっていうもう一つ裏の名前があるんだっていう作り方するわけです。
アルテイシアって名前も嫌いなわけ、僕には。これはもう、あからさまに出来すぎている名前じゃない。

井上
お姫様っぽい。

富野
嫌だよねって思うんだけども、セイラ・マスの名前だからまあいいかって。
一緒にしちゃったら、ひょっとしたらキャラクターになるかもしれないなと。だから一緒にするという努力をした。
だからセイラに関して言えば、そういう泣かせ方をする。シャアっていう僕にとっては恥ずかしい名前、「お兄さん」つって泣くんだよね、っ「て馬鹿ーっ」って思いながらコンテ切ってるもん。
「この漫画みたいな事やるんじゃねぇ」と思いながら、ここまで行けば形になるだろうなと。

井上
だから逆にセイラって凄く聖的な部分もあるし、もの凄く俗っぽい部分、両方ありますよね。

富野
勿論。だからそれでその揺れ動き、キャラクターとしての面白さになってくるわけだから、
っていうのは本当に全部を好きになっててキャラクターが作れるとはやっぱり思えないな。


そういう意味では、富野さんの作品に出てくる台詞というのは、本当に日常生活の中で自分が思わず呟きたくなったりとか、
あるいは記憶に残り続けている言葉というのがとても多いんですよ。富野さんが台詞を考える時に、力を持たせようという気持ちというのはあるんですか?

富野
ファーストガンダムの冒頭でシャアがミサイルを撃って、「認めたくないものだな、若さゆえの過ちを」
ってあの台詞を思いついた時に、ミサイルを撃って一応陽動をかけておく、
だけど「えっここで第二撃を入れなければいけなかった」っていうのは手間がかかるとか、
第二にミサイルやっておれも出撃するぞ、っていう台詞、みんなこの手の番組では知ってる台詞じゃんって時、
こいつに何を言わせようっていう時、こいつ何か知らないけども駆け出しのくせに変に階位だけは上なんだよね、ってとこで偉ぶっちゃってる、こいつだけど偉ぶってるかと言ったときに、俺恥ずかしいんだよね、なんでマスクまでしてなくちゃいけないキャラクターにさせられちゃったんだから、っていうのを、
うわーっとそういう台詞にしたいと思ったって時に、こいつ若いんだって自覚させればいいだけの話だって時にあの台詞は出てきた。

富野
あの台詞はだから散々言われたものね。あのおかげでガンダムってのは視聴率取れなかったんだよって言われたからね。

井上
そうなんですか。

富野
言われましたよ、はっきり。

井上
それは分かり難いっていう。

富野
分かり難い。

井上
何かね、今となってはあれが象徴的な台詞ですよ。

富野
その劇に合うキャラクターの造詣を目指しているって、僕にとってアムロという名前を決めたときからある、アムロに拮抗するシャアって風に置きたいから、シャアの肉声、がマスクのまんまの言葉ではいけない。
あそこまでアップにしたら独り言で良いわけだから。


凄いエネルギーで台詞っていうのは生まれてくるわけですね。

富野
状況を、世間の中にやっぱりこれを何とかガンダムって作品を立たせたいと思ったので。
その劇を作らせている、保守サラリーマンとかマニュアルが作っているルーチンワークに落としていると、絶対に目立たなくなるという事だけは分かるし。


富野さんの宇宙へのあこがれってのはいくつ位から持たれてたものなんですか?

富野
ぼんやりと思ったのは小学校4年位の時で、具体的になったのは5年生になった頃です。
どうもやっぱり父親の仕事の影響がとても強い。で、その父親の仕事ってのは家の中に宇宙服そのものの写真が父親の作った宇宙服そのものの写真が何十枚かあったんですよ。


え?

富野
宇宙服です。宇宙服と言ったら多少角が立つんだけども、正確に言うと与圧服と言います。
つまり圧力をかける服、つまりパイロットそのものが潜水夫のような服を着るという、零戦乗りが1万mを超える高度で2、30分保てる服を作れっていうのがあって、その試作品があったんです。


お父様のお仕事ってのは?

富野
ゴム屋です。ゴムの皮膜を作る仕事があったんで、ゴム屋だからつまり密閉する。親父のそういうもの見てたんで、
実を言うと宇宙服っていうものに抵抗感が全く無かった子供だった。


はぁ、それは特別な環境ですよね。

富野
かなり特別でしょうね。その事が今のシャトルの宇宙服、全部つながってちゃって、僕の中ではNASAのやってることじゃないわけ。全部この辺にあることだったんで。

井上
逆を言うとリアルアムロですよね、それね。


お父さんの作った資料読んで。

富野
だから、それこそ誰でもいいんだけど、セイラさんのね、体型が見えるような宇宙服なんてあるわけねえじゃねえかっていうのが基本にあるから、
ガンダムをもってしてリアルな何とかかんとかって言われるのは大嫌いです。

ナレーター
富野さんの父親が作った与圧服。確かに宇宙服そっくり。こうした環境の中、宇宙への夢を育みました。
富野さんが小学2年生の時に描いたロケット、いつか月に行こうと真剣に考えていたといいます。
小学5年生になると「宇宙旅行」という雑誌を愛読、科学の知識はすでに大人顔負けでした。
少年時代の夢や知識を生かしたい、そんな富野さんが選んだのは映像の世界でした。


あの、アニメというものを、こう選ばれた…

富野
選んではない。


ではアニメというものに入っていったきっかけってのは何だったんですか?

富野
虫プロが救ってくれたから、雇ってくれたからです。


大学を出る時に?

富野
うん(頷く)。そうでなかったら他に僕は就職先がなかったもん。


本当は映画をやりたかったんですよね?それは環境としてはあまり、こう…。

富野
実写撮っている所は、例えばどんなに二流の下請けのプロダクションでも僕は雇ってもらえるとは思えなかった。
出来が悪い学生だったから。それは本当にそうだった。だから本当に虫プロが救ってくれた。
それだったら電動紙芝居でもやるしかない。かなりテレビ漫画の仕事なんてのはレベルが低いんだけれども、それでもなんて言うのかな…
それでも有効利用はあり得るなと思った。むしろアート、芸術から入るよりは、間違いはないんじゃないかというのは、アトムの仕事3年間やって教えられたことだから。
世俗に向けて、作品を作るっていうのは悪いことではない。そういう意味ではああ、映像媒体ってのは面白いな、ってことは本当に教えられました。

ナレーター
手塚治虫の主宰する虫プロダクションで、3年間演出の基礎を学んだ富野さん。
以後フリーの演出家として様々なジャンルの作品を手がけました。「機動戦士ガンダム」を作ったのはアニメ業界に入って15年目の事。


あの、それまでの富野さんの作品とは、明らかに違いますよね。

富野
うん、あの、違うんだよね。それがちょっと嫌なんだけども。


何でですか?

富野
違うんだけども違わないんですよ。宇宙旅行を忘れて、月面に自分が立つということも忘れて、大人の暮らしをやってきたわけです。
そうするとアニメの仕事しか出来ないからっていうんで物語を作るっていう所に行ったわけです。
それでだから僕にとってはガンダムまでの作品というのは所詮お仕事でやっていた事であった。
だけどフィクションというものは、ちょっと待てよ、本気で宇宙旅行やっていいんだ、っていうのが分かって辿り着いた時に、
ガンダムというのは僕にとってはとても抵抗なく、あの劇空間というのは、僕の中ではリアルなものとして存在していたから凄く平気だった。
だからむしろフィクションを作る上で重要なのは何なのかという事を考えた時と、あの宇宙旅行の対象となっている宇宙空間というものを、劇に持ち込む為にどうしたらいいかという風に考えた時に、
戦争を舞台にしないと、あれだけ動き回るシチュエーションというのはありえないから戦争物にしたということで、戦争物が先にありきでもないんです。
宇宙旅行ありきなんです。僕の思いのまんまをこうやってガンダムというのは貼り付けられたし、仕事の上でそういう子供の頃に一番本気で思ったことを貼り付けることができたっていう、
再現ができたっていうこと方の嬉しさの方がはるかにありました。だから理知的にいう意図なんてどこにもない。


富野さんがそういったものをね、こう企画に盛り込んでいくというのは、当時としては冒険的な事ではなかったのですか?

富野
いや、冒険なんてものは全部嘘ついてやりましたもん。


そうですかw

富野
だから戦争物なんて言葉どこにもないもん。要するにこういう敵が攻めてくる、その敵をこういう風にやっつけるっていう企画書しかない。
よく読んでみると、敵今回宇宙人じゃないよね、っていう事でクレームつくんだもの。そういう時代だったんだもの。


当時、先程ね、周りを全部騙しましたとおっしゃってましたけども、どんな風に騙しちゃったのですか?

富野
だから、ガンダムに関してはきちんと戦争物とは書かなかったということだし、もっと言ってしまえば大体15だ16だ17だという設定の子が、
戦車と戦闘機の性能を持った様なものを、一回目から操縦なんかできないわけです。軍隊に入ってなければ。基礎訓練を受けてなければ。
それがだから操縦出来るためにはきっとエスパーなんだろうなっていう可能性もちらっと書いておけば、まぁ一応誤魔化せるかもしれないとか。
それは色々言われましたね。大体全長が16mだ18mだという巨大ロボットはねえだろうってことで散々叩かれましたもん。
ロボットは全長80mなんですよ、最低でも。120mが理想なんです。そうでなければ合体できないんです。
そんなのおもちゃとして考えれば当然でしょう。それを嘘つくというのはかなり辛い事ですよ。


ロボット、でしたよね、当時はそれまでは。それをわざわざ「モビルスーツ」という言い方に置き換えていった、というのはどんなやり方だったんですか?

富野
でもロボットを正確に考えていくと、基本的に現在では通用する言葉なんですよ。自律型二本足歩行機なんです。人が操縦するのは基本的にロボットではないんです。
だから、そろそろ正面切って乗り物という言い方をしたいんだけどもなぁ、人型の乗り物という所での造語をずーっと考えていっても全然出てこなかったんで、しょうがないっていう事で、
宇宙に出てくる時に人が中に入れるものだからっていうことで、もの凄く大雑把に「スーツ」として考えて、ああだったらモビルスーツなんだなっていう風に作っただけのことです。
本当にそれだけ。その時に「スーツ」だって言い方は酷いんじゃないかという言い方は当然あります。だって「モービルモービル」でも良い訳だし、
モビルドールでも良い訳だし、だけどドールというところに行きたくなかったという理由もちょっとありましてね。あくまでも人が着ている外装としてあるものだと規定したかった。
「モビルスーツ」っていうまだ触っていない言葉ががあったっていうのは、見つけられたというのは、僕にとっては僥倖でしたんだけれども、実はその部分に関しても違うんです。評価は決定的に違います。


周りのですか?

富野
周りの。もうはっきりある出版社レベルで、途中でガンダムが打ち切りになった、「そりゃそうだよね、ロボットをモビルスーツだもんね、伝わるわけねえよね」だもん。
これは直に聞かされました。一人じゃないですよ、言っときますけど。ああ、この人たちは要するにSFっていうものを好きじゃないんだって、所詮餓鬼向けだって思ってるんだっていうこともあったんで、やっぱり慣れている大人、大嫌いです。
あ、慣れている風に見せている大人。ましてサラリーマン系の大嫌いです。

ナレーター
おもちゃ会社の提供で52話を放送する予定だったガンダム。しかし、おもちゃが売れなかったため、43話に短縮されてしまいます。


当時の思いとしては、凄く悔しい思いというのはあったんじゃないですか、そこは。

富野
勿論山程ありました。だから。山程あったけれども、大人の付き合い、世間ってのはこういうものなんだ、とも思っていたから、
要するにモビルスーツで承服させられるだけの作品を作れなかった自分が非力なんだと思ったということはあります。
ましてアニメ初では駄目なんだろうか、という部分は本当にありました。だから実写でモビルスーツって言い切った作品が作れればいいなとも思ったし、
基本的に全部やっぱり自分の中に自分にその創作をしていく力がなかったと思い知ったっていうのが僕にとってのガンダムなんです。

井上
でも何かファンレベルの盛り上がり方と、富野さんの当時の受け止め方と全然違う感じですよね。ファンはものすごく騒いでたんですけどね。そういうのが伝わってない。

富野
伝わってないのと、ファンのある時、ある時期からのファンの事も分かりますよ。だけどそれは僕には申し訳ないけど、眼中にないわけ。
どうしてかと言うと、ファンが好きなのは当たり前なんですよ。僕が相手にしてるのは世間なんですから。世間を構成している人達のメインである、
例えばお父さん達に分からせたいといった時にあまりにも力がない。むしろアニメファンというレベルが騒いでも盛り上がったものなんて世間から無視されるんだから僕にとってはとても危険な存在だとしか見えませんでしたもの。
だからファンの評価は僕は基本的に眼中に置かなかった人間。それはひょっとしたら現在もそうかもしれない。


アニメという媒体ですよね、あくまでも。どうしてもアニメファンは見ちゃいますよね。だけれども…。

富野
だからそれが当然なの。だからファンが見るのはいいんです。いけないなんて言ってないんです。ファンがいてこそ、それこそ商売が成り立ってわけですからありがたいんです。
ただ、ファンの評価はあくまでもファンの評価なんです。僕は世間に評価されたいの。アニメ初であってもね、
例えば世間が「えっ」と思えるような作品にしたかったわけ。26、7年も前に。それが打ち切りになるわけだし、映画になったっていう風に言われるんだけど、
それだってファンが見に来てくれるだけで、世間の人が見に来てくれてないんだから、僕の中で評価にはなりえないの。これを獲得する為にはどうするかっていう風な事しか考えなかった、当時から、それから現在までも。


ガンダムに関して言うならばですよ、それでも社会現象とまで言われたじゃないですか。

富野
嘘です。嘘です。社会現象って言いたい人は自分がファンだったために、かつてそういう盛り上がりがあったんだよと思いたいの。
僕にしてみればそれは世間の盛り上がりではなくて、お前ら程度の盛り上がりなんだからそれは盛り上がりではありません。盛り上がりってのは最低今のスターウォーズ位言われてて盛り上がりなんです。


子供に見てもらうという意識はあったんですよね、ガンダムとはいう…。

富野
勿論。勿論。


で、そういう意味では、例えば人同士が戦うっていうシチュエーションを作り出すとか、そういった部分というのは子供が見る世界観にとっては非常にある意味しんどいというか、
ショッキングではないかなと思うんですが、そういう意味でたとえば見る人に伝えたかった事っては何ですか?

富野
いや、だから、殺し合いは辛いぞって、止めなさいって。

井上
企画書のテーマが「修羅の連続」って書かれていて、それが逆にいうとそれで良く通ったな位な、当時としては、企画書だったと思うんですけど。

富野
つまり、怪我をしない戦闘なんてないわけだし、アクションなんてないのに、怪我をしないで済むと思わせるほうがよほど酷いんじゃないですか。で、その部分に関しては嘘をつかない。
それだけは伝えたかったといえば伝えたかった事。そしてそれは大人に知らせるよりは子供に知らせた方が恐らくです。記憶として残ると思う。
もっと言っちゃうと、僕に一番力がないと自覚するのはどういうことかと言うと、現実的な世間に対して教訓とか打撃になるような所まで評価されてないってのは無念だっていう事。
これオフレコにしていいです。改憲論者が平気で出るっていうことに対して、阻止出来なかった自分っていうのがやっぱり辛い。

ナレーター
現在富野監督が制作しているのは劇場版 機動戦士Ζガンダム。いわゆるファーストガンダムから7年後の世界が舞台。アムロやシャアの成長した姿が描かれます。
(ここでΖGII予告)

ここからスタジオ見学。

富野
スタジオったって偉そうなことはありませんでね、こうやって物置みたいなところなんですよ。ただ、今ここにいるのが、このスタジオでの一番の中枢のスタッフってのはここにいる作画監督と言われている人たちが今ここに2人だけいます。この人(恩田氏)が一番怖いんです。
恩田さんとそれからこちらの仲さんも今、別の仕事やってないでΖの仕事やってるよね。


あ、はいやってます。

富野
へっへっへっへ…。アニメーターの特権でね、時々アルバイトもするんですよ。

ナレーター
今や20歳以上も年の離れたスタッフと一緒に仕事をする富野監督。以前は監督が近づくとスタッフの間にピリピリとした緊張感が走ったそうです。
(仲氏がΖ、恩田氏がジェリドの作画)

富野
あのね、それは僕の世代が本当に一番僕反省しなくちゃいけない事だと思っているから。君臨するのをやめました。
もう10年前で言えば君臨してましたよ。それで君臨するという言葉通りの事を例えばやろうとしたときに、なんて言うのかな。
いつも偉ぶってなくちゃいけなくて、本音が言えなくなってくるんですよね。君臨するってのはどういう事かというと、
己の好みしか人に対してやらせることができなくなってきて、スペアを手に入れることができなくなってくるんです。
それはとても危険なことだなっていう風に。だからスタジオワークは世代の違う年代の人が集まるっていう所で、スタジオワークを生み出すサムシングっていうものを手に入れていくためには、どうしていくのか。
嫌らしい言い方しますよ。「柔らかい統治」という手法はもう少し我々の世代が手に入れなくちゃいけなかったことじゃないのかなっていう気がする。
それは卑屈か偉ぶるかのどっちかしかなかったというのは、バブルまでのやっぱり日本人のお父さんが手に入れた手法だったのかなという気がしないでもない。
うん、本当だよ。今の話。

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