06/01/26-23:06
ART iT Vol.3「僕がガンダムに出会ったころ 福井晴敏」:シャア専用ブログ
大人になるための、社会を覗く扉として機能したのがガンダムだった
「機動戦士ガンダム」がTVで初放送されたころ、僕は小学4年生でした。でも、初めて見たときは5分と経たずにチャンネ
ルを変えてしまった。登場人物はみんな深刻な顔で言い争い、誰がヒーローで誰が悪役なのかも判然としない。何か感じ
悪いお話だな、と思って(笑)。ただ、仲間内でもませた友達は「あれは凄い」などと言う。そうなると、僕らも追いつ
かなきゃという空気になったきたわけです。
そんなこともあり、きちんと見始めたのは再放送時、小学校5、6年生のころですね。今度はもう「明日からあの『ガンダ
ム』が始まるぞ」という雰囲気でした。スーパーカー、ウルトラマンとブームがきて「次はコレね」くらいに思ったので
すが、物語の内容がやはり難しい(笑)。ただ、型どおりに話が展開する従来のアニメとは違う何かに強く惹き付けられ
ました。富野監督もよく言っていますが、大人が一生懸命に語りかければ、子供は多少わからなくても自分なりに聞こう
とする、まさにそんな経験でした。毎日、放送が始まる夕方5時半には家に「帰還」。走ってでも帰って見ていました。大
人気のプラモデルを作りましたが、綺麗に色を塗るのが苦手で、出来上がってみるとガンダムとは似て非なるものに……
という悲しい思い出もあります(笑)。
また、富野監督による小説版「機動戦士ガンダム」も、僕には大きな存在でした。小学生の僕はやがて自分が小説家にな
るなど夢にも思っておらず、読書といえばせいぜい学校の課題図書ぐらい。それすらも嫌で、読んだふりをして感想文を
書くような子供でした。でも、そんな僕にとってこの本は、いわば「大人の世界への扉」のようなものだったのです。内
容はアニメよりさらにシリアスで、人間の残酷さや複雑さが描かれ、セックスの描写もありでした。そのどれもが「スゲ
ェことになってるなあ、ガンダム」という衝撃でしたね(笑)。こう考えると、僕は映像、おもちゃ、小説と、マルチメ
ディアでガンダムの洗礼を受けた子供でした。そして、大人になるための、社会を覗く扉として機能したのがガンダムだ
った。
後に小説家の道に進み、「Twelve Y.O.」で江戸川乱歩賞を頂いたとき、誰でも好きな人に献本できると出版社に言われま
した。そこで富野さんに送ってみたのです。彼は丁寧な手紙をくれて、それがきっかけでお付き合いさせて頂くようにな
りました。新たなガンダムシリーズ「∀ガンダム」(ターンエーガンダム)が始まったとき、そのノベライズのお話をも
らったのも、そんな縁からです。「亡国のイージス」も「終戦のローレライ」もそうですが、僕の小説は常に人間の「リ
アル」を重視してきたつもりです。その点でも、富野さんとの仕事は作家としての幅を広げてくれた経験でした。だって、
モビルスーツが存在する世界の人々をリアルに描けたなら、あとはどんなものだって書ける気分になりますからね(笑)。
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